コーチングが変えた「コマースメディア」の未来。「人が活きる組織」を目指した6年の軌跡

「なぜ、コマースメディアにはプロコーチによるコーチングを受けられる制度があるのか?」

 

こんな質問を受けることがあります。福利厚生として珍しいこの制度の背景には、会社の存続を左右するほどの危機と、そこからの組織変革がありました。

 

その分岐点は2019年。当時、代表の井澤が抱えていた深刻な悩み、組織内には強い緊張感が漂っていました。

 

あの時、コーチングと出会っていなければ、今のコマースメディアは存在していなかったかもしれません。

 

そしてコーチングが導入されてから6年。コマースメディアがどのように変化をしてきたのか、本記事では紹介していきます。

 

コーチングと出会う前、「人が辞めていく」組織の現実

2019年当時、コマースメディアは急成長の真っ只中にいました。しかし、その裏では“人が辞めていく”という深刻な問題が進行していたのです。

 

井澤は当時、それを「仕方のないこと」と捉えていました。急成長の過程では一定の離職は避けられず、やむを得ないこととして受け止めていたのです。

 

実際の職場環境はどうだったのか。業務の役割分担が曖昧なまま、新しい仕事が次々と降ってくる。

 

井澤の「任せる」マネジメントスタイルは、裏を返せば"渡しっぱなし"になっていた側面もありました。

 

メンバーは「なんとか付いていく」というスタンスで必死に走り続けるしかなく、負荷は増える一方。

 

組織としての体制が整っていない中での急拡大。その歪みが、人の流出という形で表面化していたのです。


川野さんとの出会いがもたらした"対話"の始まり


コマースメディアの転機は、2019年10月に訪れます。



井澤がかつてお世話になっていた「世界へボカン」の徳田さんから、組織活性化の専門家・川野さんを紹介されたのです。

 

正直なところ、井澤は最初、川野さんとの面談を少し面倒に感じていたそうです。

 

川野さんとの初回の面談で、井澤は率直に打ち明けました。「人が辞めてしまう。理由がわからない」と。

 

川野さんはまず、現状を正確に把握するため、コマースメディアの全社員にインタビューを実施しました。



そこで出てきたのは、井澤への不満の声でした。

 

しかし、川野さんはその言葉の奥にある“本音”を見逃しませんでした。単なる愚痴と、組織を良くしたいという想いから出てくる不満は違う。

 

社員たちの声には、「もっと会社を良くしたい」という希望が確かに込められていたのです。



自分が被害者だと訴える声もあれば、前向きに会社を変えようとする声もある。

 

川野さんはその違いを丁寧に聞き分け、今の実態を率直に井澤に伝えました。ここから、コマースメディアとコーチングとの本格的な関わりが始まったのです。

 

川野さんは、当時のことをこのように語っています。


井澤さんが私に正式にコーチングを依頼してくださった際のメールが、今でも印象に残っています。



「私が変わり全体が良くなることでしたら喜んでおこないます。今の私では自分の世界の中でしか考えられていないと思います。お力お貸しいただけますと幸いです。」



この言葉には、「まず自分が変わることから始めよう」という強い覚悟が込められていました。

 

多くの経営者は、自らの変化の必要性に気づくまでに何年もかかります。



しかし井澤さんは、最初から“自分が変わること”を前提にコーチングを求めてこられたのです。



だからこそ、このコーチングは真に機能し、組織全体に良い変化をもたらすことができたのだと思います。


コーチング導入期の葛藤。任せる文化がもたらした葛藤と成長

コーチングが導入された当初、すぐに全てが好転したわけではありません。むしろ、現実はもっと複雑だったのです。

 

井澤のマネジメントスタイルには一貫した特徴がありました。

 

一度仕事を任せたら、権限も責任も含めて完全に委ねる。細かく指示を出したり、逐一進捗を確認したりはしない。この"任せ切る"姿勢は、人によっては非常に厳しいものでした。

 

サポートが欲しい人、段階的に成長したい人にとっては、突き放されたように感じられたのかもしれません。

 

結果として、「自分で切り開きたい」と考えるメンバーが残り、依存せずに考え、行動できる人材が育っていきました。井澤のスタイルに適応できる人が自然と定着していったという方が正しいかもしれません。

 

川野さんは井澤との対話を重ね、このマネジメントスタイルの長所と短所を言語化していきました。

 

「任せる」ことは悪いことではない。ただし、それが機能するには条件がある。メンバーの状態を見極め、必要な時には伴走する。

 

そうした調整を、井澤自身が少しずつ学んでいったのがこの時期でした。


コーチングと人の可能性を見抜く力

2019年末、井澤は川野さんのコーチング塾に参加し、「話を聞くことに集中する」というコミュニケーションを学びます。

 

それまでの井澤は、リーダーとは自分の意見を伝え、方向性を示す存在だと思っていました。しかし、伝え方がうまくいかず、組織が思うように動かないことも少なくありませんでした。

 

コーチングを通じて学んだのは、相手の言葉の奥にある価値観や考え方を意識して捉えることでした。

 

まだ本人も気づいていない考えや強みを知る、という関わり方を取り入れていったのです。

 

さらに井澤は、リクルート創業者・江副浩正氏の思想や『心理学的経営』といった書籍を通じて、「自律的な組織」への理解を深めていきました。


「組織活性化委員会」が生んだ自律の文化

コーチングが定着し、組織が大きくなっていくにつれて、井澤と川野さんだけでは全員のケアを行き届かせることが難しくなってきました。

 

社員数が増えてくると、一人ひとりの声を拾い、対話を重ねるには限界があったのです。

 

そこで生まれたのが、「社内でコーチングできる人を育てよう」という構想でした。これが現在の「組織活性化委員会」につながります。



この委員会は、社員自身がコーチングを学び、仲間同士で対話を促すことで組織を活性化させる仕組みです。発足してから1年ほどの取り組みですが、すでに変化が見え始めています。

 

コーチングが"外部支援"にプラスして"内製化"へと進化したことで、コマースメディアの組織文化は、より内発的に成長する段階へと移りました。

 

川野さんというパートナーの力を借りながらも、最終的には自分たちで組織を育てていく。その土台が、ようやく形になり始めています。


6年の到達点。「混沌こそ文化」という自律的組織

6年にわたる関わりを振り返り、川野さんはこう表現します。



「井澤さんとよく話をすることですが、コマースメディアは、まるでジャングルのような組織。混沌としているけれど、確かな秩序がある。」

 

この言葉は、私たちの組織を的確に捉えていると感じます。チームを超えて助け合い、指示を待たずに動く社員たち。一見すると無秩序に見えるかもしれませんが、そこには確かな自律性と協調性が存在しています。

 

井澤はこう語ります。「自分の支配下にいない方が嬉しい」。これは、メンバーが自分の意思で動けることこそ、リーダーとしての最大の成果だと信じているからです。

 

実際、今のコマースメディアには多様な価値観を持つ人が集まっています。自走しながらも、互いを尊重し、前に進んでいく。その姿は、まさに"自立と共創"を体現した文化の形です。

 

この"雑多さの中にある自律"こそが、コマースメディアの最大の強みになりました。


コーチングがなければ、今の私たちはいなかったかもしれない

今では笑い話のように語られていますが、当時の井澤は「全員を集めて解散を宣言するつもりだった」と話しています。

 

人が次々と辞めていく組織。
辞めるのは仕方ないと割り切る経営者。
曖昧な役割分担の中で疲弊していくメンバー。

 

もしあのまま進んでいたら、どこかで本当に組織は崩壊していたのかもしれません。

 

コーチングがもたらしたのは、スキルや理論だけではありません。それは「人を信じる」という文化そのものでした。

 

メンバーを信じて任せる。
メンバーの声を聞き、対話を重ねる。
自律的に動ける環境を整え、互いに支え合う関係をつくる。

 

そうした一つひとつの積み重ねが、今のコマースメディアを形づくっています。

 

もちろん、今も完璧な組織ではありません。課題は山積みです。


それでも、「人が育つ組織」を目指して、みんなで前を向いて歩いている。それが、今の私たちなのです。

 

この6年の軌跡が、同じように組織づくりに悩む誰かのヒントになれば幸いです。


執筆後記

この記事は、代表の井澤と川野さんの対話メモをもとに、人事担当として編集したものです。美化することなく、当時のリアルな葛藤や試行錯誤も含めてお伝えすることを心がけました。組織づくりに正解はありません。でも、対話を重ね、信じ合うことで、道は少しずつ開けていく。そう信じています。

 

この記事を書いた人

Norihiro.Y/人事担当者

コマースメディアで人事を担当するとともに、大塚のイベントスペース「オオツカスタジアム」の総支配人も兼務。不動産テック企業やエンタメ企業での人事経験を経て、現職では採用・組織づくりに取り組む。社内外のさまざまなステークホルダーと協働しながら、組織の魅力づくりや人材活躍の仕組みづくりを推進中。趣味はランニング。