人材育成も踏まえAIの活用範囲を定める。人でないとできない仕事ができる組織へ

人材育成も踏まえAIの活用範囲を定める。人でないとできない仕事ができる組織へ

AIの活用が不可欠だとしたら、EC事業者はどのように付き合っていけば良いのか。提供する価値を踏まえ、人材育成も視野に入れた線引きが必要なようです。フラクタ代表・河野さんとコマースメディア代表・井澤さんが対談しました。
(interview / Text: ワダ スミエ)

▶本記事は後編となります。前編はfracta-journal 「AIがECにもたらすパーソナライズの実現!?-ChatGPTとの対話から見えたECの未来」でお読みいただけます。

──特にリアル店舗などを持つ大手企業では、EC責任者の力量が事業の成否に大きく影響しているのではと思います。AIを活用できるか否かで、また大きく差がつくのではないでしょうか。

(井澤)EC業界だけでなく、社会構造自体が変わってくると思います。AIで代替できる作業をするために人を抱えている企業と、AIをうまく活用して人は指揮者のようにタクトを振っているという企業があれば、後者が勝つでしょう。人を抱えていると、収益構造が成り立たなくなる時代がきますから。

技術革新が起きる時には、新しいものが出てきますよね。たとえば求人なら、紙媒体が主流だったのがウェブサイトになり、オウンドメディアやSNSも活用するようになってきている。まずは、生成AIに特化したECモールが出てくるのではないかと考えています。ここのところ新しいモールが登場していなかったこともあり、そろそろかなと。海外から新しいものが出てきて、越境ECが大きく変わるかもしれません。

越境ECは、言語、配送、関税、通貨、法律などその国ごとに調査や対応が必要でハードルが高かったのですが、AIはこのあたりの膨大な情報量を処理するのが得意ですから、ハードルを下げてくれる可能性がある。河野さんが言った、パーソナライズされた海外販売のイメージです。そうなると、それぞれのステップに対応するツール事業者の先行きは気になるところですが。ツール系が集約され、どのサービスも機能が充実し違いがなくなってくると、最後は資本勝負になってきますよね。

(河野)細切れになっていたサービスが、AIで一本化されるかもしれませんね。独自の参照用DBを持っていないところは、今後厳しいでしょう。たとえばグルメサイトは、レビューのような独自DBを持っているからChatGPTとプラグインでつながる形になる。一方でたとえば言語の翻訳サービスは、突き詰めていくと答えは共通するため、AIだけで役割が果たせてしまう可能性がある。RPAのように作業を代行するサービスは、AIを用いて企業が自作するようになっていくかもしれません。

──タクトを振れる指揮者がいるかはおいておいて、AIを活用できればEC事業者には良い時代になったのかもしれません。

(井澤)より商品に向き合わざるをえなくなると思います。これまで以上にどこにでもアクセスできるようになるため、ちょっと斜めの売り方をしていたのが通用しなくなるでしょう。ブランディングは今後いっそう、重要になっていくと思います。もちろん、AIがブランディングする場合もあるでしょうが。現時点でもテクノロジーをまったく活用していないけれど、ラーメン自体が強いから繁盛しているラーメン屋さんみたいなところに立ち返っていくのかなと思います。

一方で、Web3.0はもう一度見直されるかなと考えています。最初に盛り上がった時には難しすぎて、使いこなせる人が限られていた。わたしもいくつか試しましたが、少しミスをするとお金がなくなったりしましたし。それが今回のAIの登場により、漠然としていますが、そのうち交わる時が来て、一般的にも浸透していくのではないかと思うのです。ECと関連するところで言うと、ブロックチェーンを使えばデジタルチケットの転売問題なんかは解決できますよね。

(河野)NFTの仕組み自体は画期的なものだったのに、投機のイメージがつきすぎてしまったんですよね。今回のAIがさらに浸透し、社会インフラ化して、2023年の年末までに落ち着くでしょうか。その後、2024年以降からまたメタバースが来るんじゃないですかね。

──「人手不足なんだからAIを使いこなそう!」は理解しつつも、「自分の仕事はなくなるのではないか?」との不安は拭えないところです。

(井澤)AIはカーナビみたいなものかなと思います。カーナビが登場する以前は、人が道を覚えたり、紙の地図を広げながら運転したりしていました。今ではそんなことする人はまれで、プロのドライバーですら当たり前に使っていますよね。3台の別々のナビを使いこなす運転手のタクシーに乗ったこともあります。新しいものを使いこなして、それまで以上のサービスを提供するのがプロだと思います。

直近のECで言えば、AIの活用で土日対応ができるようになるのは大きいです。カスタマーサービスへの問い合わせに一次対応して、複雑なものは「数日後に回答します」と返信できるだけでも違います。このようにして、徐々に現場が楽になっていくと良いなと思います。

(河野)僕たちはAIに触れているから当たり前のように話していますけれど、MM総研の「日米企業におけるChatGPT利用動向調査(2023年5月末時点)」によれば、日本のビジネスにおけるChatGPT利用率は7%だとか。まずは啓蒙活動からになるでしょう。井澤さんはこれからくるAI時代、どのような人材が必要になると思いますか?

(井澤)中学生時代の記憶なんですが、「社長になるのは『枠組み』を作れる人だ」と言われたのを鮮烈に覚えています。社長にかかわらず、仕組みを作り、それを価値につなげられる人が強いのだと思います。AIにぼんやりした問いを投げると、ぼんやりした答えが返ってくるでしょう。河野さんのバズったTweetにもありましたが、適切な回答を得るには適切な指示が必要です。それができる人材ですかね。

(河野)僕は、スペシャリストからゼネラリストの時代に変わるのだと考えています。AIを用いることでそれなりのことはできるため、幅広い業務でAIに指示を出せる人材が求められていく。クリエイティブや運用のスペシャリストは引き続き求められますが、単純な作業のスペシャリストはAIに代替されてしまうため、取りまとめられる人のほうが強くなるのかなと。そうなると、新入社員の教育は難しくなりますよね。

(井澤)トラブル対応ができる人材が育ちにくくなると言ったのは、まさにそれですね。AIで代替したほうが収益構造としては良いのだけど、ある程度、作業のような仕事も残しておいて、新人にあえて経験してもらう教育は必要だと思います。

現状のECの運用代行においても、当社ですべてやれなくもないのですが、提供する価値はそこではないため、マンパワーに頼るのは半分までと決めています。たとえばAmazonはデータが整備されてつながっているため、ツールを駆使することでひとりでEC業務のすべてをさばくことができ、すごい利益率を出しているところも知っています。しかし今後は、人が考えたコンセプトや、経緯により価値が出てくると考えています。教育に限らず、どこまでAIを活用するかのバランス感覚が重要だと思います。

(河野)新人教育の仕組みはきちんと整備し、これからやってくる人材が「育成氷河期」に当たらないようにしなくてはと思いますね。クリエイティブに関しては、人が生み出せるもののスコアが1〜1万点の範囲があるとした場合、AIは常に100点をとってくれますが、1万点はとれない。ホームランを打てるようなクリエイティブは必要とされるはずですから、そういうものを作れるような会社にしていきたいと思います。

──今日はありがとうございました!

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